2026年5月6日

コミュニティとアソシエーションの違い — 共同体と結社の概念整理

CommunityStrategy

「コミュニティ」という言葉の曖昧さ

「コミュニティを作りたい」と言う人の中には、Discord サーバーを想定している人も、ユーザー会を想定している人も、趣味のつながりを想定している人もいます。同じ言葉でも、指しているものがまったく異なることが珍しくありません。

この曖昧さを整理するために役立つのが、社会学者ロバート・マッキーバー(Robert M. MacIver)が 1917 年の著書『コミュニティ』で提唱した「コミュニティ」と「アソシエーション」の区別です。約100年前の概念ですが、今日のオンライン施策を設計するうえでも、判断の起点として使えます。


マッキーバーの定義 — 共同体と結社

マッキーバーは、人が集まる形を2つに分けました。

コミュニティ(Community)とは、地域・関心・属性を共有することで自然に生まれる「共同体」です。参加者は特定の目的のためではなく、「そこにいること」自体に意味を見出します。村・家族・近隣集団・テーマで集まる仲間などがその例です。

アソシエーション(Association)とは、特定の目的を達成するために意図的に作られた「結社」です。参加者は目的の共有によって結びつき、目的が達成または消滅すれば解散することも想定されます。企業・学校・労働組合・NPO などがその例です。

性質コミュニティ(共同体)アソシエーション(結社)
生まれ方自然発生的意図的に設立
結びつきの軸帰属感・共有された文脈共通の目的・利害
参加動機「そこにいたい」「何かを達成したい」
目的との関係目的より場が先目的が場を作る
解散の概念薄い(成員が変わっても続く)ある(目的消滅で解散)
コミュニティ(共同体)からアソシエーション(結社)へのスペクトラム図。左端に地縁コミュニティ、中央にテーマ型コミュニティ、右端にNPO・企業・学校を配置した連続的な軸。
コミュニティとアソシエーションは二項対立ではなく、連続するスペクトラムとして捉えるのが実態に近い。

現代における境界の曖昧化

マッキーバーの時代、コミュニティは地域(村・町)と強く結びついていました。地理的な共同体が前提だったのです。しかし、インターネットとりわけソーシャルメディアの普及によって、「場所を共有しない人々が関心だけで集まる」ことが可能になりました。

この変化は、コミュニティとアソシエーションの境界を曖昧にしています。

  • オンラインの趣味グループは、目的がなくても成立する「コミュニティ」的な場だが、Slack や Discord などのツールを使う点でアソシエーション的な構造も持つ
  • 企業が設立したユーザー会は、明確なKPIを持つ「アソシエーション」だが、参加者同士の帰属感が育てばコミュニティ的な性質を帯びてくる

重要なのは「どちらかに必ず分類できる」という考え方ではなく、「自分たちの場は、今どちらの性質が強いか」を認識することです。


企業施策における比較 — 参加動機・KPI・運営コスト

企業がコミュニティ施策を設計するとき、コミュニティとアソシエーションの性質の違いは、実務上の判断に直結します。

観点コミュニティ寄りアソシエーション寄り
参加動機帰属感・共感・自己表現学び・情報収集・ネットワーキング
KPI継続滞在率・温度感・定性評価目標達成率・参加数・コスト効率
運営スタンス場の維持・文脈の保全目的の推進・プログラムの実行
メンバーの関係横のつながりが主縦の目的軸が主
運営コスト高め(長期的な関係構築が必要)明確(プログラム単位でコントロールできる)

どちらが正解ではなく、自社の施策が何を達成しようとしているかによって、寄せるべき方向が変わります。

顧客ロイヤルティや帰属感を育てたい場合は、コミュニティ寄りの設計が向いています。特定のスキル習得・情報共有・啓発を目的にするなら、アソシエーション寄りの方が成果を出しやすいことが多いです。


テーマ型・企業型との接続

この概念は、コミュニティ立ち上げの2類型とも重なります。

「目的ありき」ではないコミュニティを始める前に決めるべきことで解説したテーマ型コミュニティは、関心・動機・帰属感を起点に集まるという意味で、コミュニティ寄り(共同体)の性質を持ちます。

一方、企業コミュニティを始める前に決めるべき3つのことで解説した企業コミュニティは、事業KPIへの接続を前提とするため、アソシエーション寄り(結社)の性質が強くなりやすいと言えます。

ただし、これは固定ではありません。企業が立ち上げたアソシエーション的な場であっても、参加者同士の対話が増え帰属感が育つにつれて、コミュニティ的な性質が加わってきます。逆に、テーマ型コミュニティも特定のイベント開催や出版プロジェクトなど目的を持つ活動を含むとき、アソシエーション的な側面が生まれます。

コミュニティの種類と選び方で示した5つの型も、コミュニティ↔アソシエーションの軸で見直すと、より立体的に理解できます。顧客コミュニティや学習コミュニティはアソシエーション的要素が強く、地域・テーマコミュニティはコミュニティ的要素が強い傾向があります。


ソーシャル・キャピタルから見た「つながりの質」

マッキーバーの概念をさらに一歩深める視点として、ソーシャル・キャピタル(社会関係資本) の研究があります。

政治学者のロバート・パットナムは、ソーシャル・キャピタルを「人々の協調行動を活発にすることにより社会の効率性を高めることのできる、信頼・規範・ネットワークといった社会組織の特徴」と定義しました。内閣府が実施した大規模な調査(2002年)では、これを日本の文脈に落とし込み、つきあい・交流(ネットワーク)信頼社会参加(互酬性の規範) の3要素として測定しています。

結束型 SC と橋渡し型 SC

パットナムはさらに、ソーシャル・キャピタルを2種類に分類しました。これはコミュニティとアソシエーションの区別と深く対応しています。

結束型(Bonding SC)橋渡し型(Bridging SC)
対応する性質コミュニティ(共同体)寄りアソシエーション(結社)的機能
つながりの特徴同質な成員間の強い内部結合異質な人・組織を横断するゆるやかなネット
生み出すもの強い信頼・連帯感・帰属感情報流通・多様性・社会の潤滑油
リスク閉鎖性・排他性・内輪化つながりが薄く、結束感が弱くなりがち
結束型SCと橋渡し型SCのネットワーク図。左パネルは5ノードが全結合した結束型、右パネルは2つのクループが橋渡しエッジ1本でつながる橋渡し型を表す。
結束型 SC(左)は内部の信頼が強い一方で閉鎖的になりやすい。橋渡し型 SC(右)は異質なグループを横断し情報と多様性をもたらす。

内閣府の調査が示した重要な知見は、「コミュニティ(共同体)的な場は結束型 SC を生みやすいが、過度になると閉鎖性や排他性につながる」という点です。一方、NPO や市民活動などのアソシエーション的な場は、異なる背景を持つ人々を結びつける橋渡し型 SC を生みやすいとされています。

企業コミュニティへの示唆

この視点を企業コミュニティに当てはめると、設計上の重要なトレードオフが見えてきます。

コミュニティ寄り(共同体型)に設計しすぎると、常連メンバー間の帰属感は高まりますが、新規参加者が入りにくい「内輪の場」になるリスクがあります。これが結束型 SC の行き過ぎた状態です。

一方、アソシエーション的な目的軸だけで場を設計すると、参加者同士の横のつながりが生まれにくく、「イベントが終われば関係も終わる」サイクルになりがちです。

内閣府の調査が示す理想的な方向性は、結束型(内部の信頼・連帯)を土台にしながら、橋渡し型(外部との接続・多様性)を意図的に設計に組み込むことです。既存メンバーの帰属感を守りつつ、新規参加者が入りやすい構造を保つ——この両立が、長期的に機能するコミュニティ設計の核心になります。


自社施策はどちらに寄せるべきか

自社施策の性質を判断するために、次の問いに答えてみてください。

  1. 参加者の動機は何か? — 「誰かとつながりたい」「そこにいたい」が中心なら、コミュニティ寄りの設計が向いています。「情報を得たい」「目標を達成したい」が中心なら、アソシエーション寄りの方が参加者の期待に応えやすいです。

  2. 成果をどう定義するか? — 定性的な「温度感」「帰属感」「口コミ」を重視するならコミュニティ寄り。定量的な参加数・完了率・リード獲得数を重視するならアソシエーション寄りが測定しやすいです。

  3. 場が目的なのか、目的のために場を使うのか? — 「集まれる場所を作りたい」がコミュニティ寄り。「目標達成のためにメンバーを集めたい」がアソシエーション寄りです。

  4. 参加者がいなくなったとき、場はどうなるか? — 参加者とともに場が消えるなら共同体的。構造が残り別の人が続けられるなら結社的です。


まとめ — 性質を理解した上で意図的に設計する

「コミュニティ」という言葉は、実態が大きく異なる場に対して同じ言葉が使われます。マッキーバーの「共同体と結社」という区別は、自分たちが何を作ろうとしているのかを明確にする道具として、今も有効です。

どちらが良い・悪いではありません。大事なのは、自分たちの場がどちらの性質を持っているか、持たせようとしているかを意識した上で設計することです。

コミュニティ寄りの場には帰属感を育てる設計が必要です。アソシエーション寄りの場には目的への導線と成果測定が必要です。両者の性質を意図せず混在させると、参加者の期待と運営の目線がずれ続け、何をしても盛り上がらない状態に陥りがちです。

概念の整理は、施策の話に入る前の「地図の確認」です。自社の場がどの地点にあるかを確かめることから、設計が始まります。


参考文献

  • R.M. マッキーバー『コミュニティ — 社会学的研究:社会生活の性質と基本法則に関する一試論』(中久郎・松本通晴 監訳、ミネルヴァ書房)Amazon で見る
  • 稲葉陽二『ソーシャル・キャピタル入門 — 孤立から絆へ』(中公新書)Amazon で見る
  • 内閣府国民生活局『ソーシャル・キャピタル:豊かな人間関係と市民活動の好循環を求めて』(平成14年度調査報告書)PDF で読む

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よくある質問

Q. コミュニティとアソシエーションは、どちらが優れていますか?
A. どちらが優れているかという問いは適切ではありません。コミュニティ(共同体)は参加者の帰属感や連帯感を育て、アソシエーション(結社)は明確な目的のもとで効率的に成果を出します。自社の施策が何を達成したいかによって、どちらの性質に寄せるかを選ぶのが正しいアプローチです。
Q. 企業が運営するコミュニティは、アソシエーションにしかなれませんか?
A. そうとは限りません。企業が立ち上げた場でも、参加者同士の帰属感や自律的なつながりが育てば、コミュニティ(共同体)の性質を帯びてきます。ただし、KPIや事業目的を前面に出しすぎると参加者の動機が「利益関係」に収斂し、アソシエーション寄りになりやすい傾向はあります。
Q. テーマ型コミュニティと企業コミュニティの違いは、コミュニティとアソシエーションの違いと同じですか?
A. 重なる部分が多いですが、完全に一致はしません。テーマ型コミュニティはコミュニティ(共同体)寄りになりやすく、企業コミュニティはアソシエーション寄りになりやすいというのは経験則として成り立ちますが、設計次第でその逆にもなります。詳しくは「目的ありき」ではないコミュニティを始める前に決めるべきことをご参照ください。
Q. どちらの性質か、どうやって判断すればよいですか?
A. 「参加者がいなくなっても、場が存在し続けるか」と問うてみてください。コミュニティ(共同体)は参加者の存在そのものが場を構成するため、全員が去れば場も消えます。アソシエーション(結社)は目的と構造が先にあるため、メンバーが入れ替わっても機能し続けます。この違いを手がかりに、自分たちの場を分類できます。
Q. ソーシャル・キャピタルとコミュニティ/アソシエーションの関係は何ですか?
A. 内閣府の調査(2002年)では、ソーシャル・キャピタルを「つきあい・交流」「信頼」「社会参加」の3要素で捉えています。コミュニティ(共同体)は同質な成員間の「結束型」SC(bonding)を生みやすく、連帯感は強い反面、閉鎖性や排他性のリスクを伴います。一方、アソシエーション的な市民活動やNPOは異質な人々をつなぐ「橋渡し型」SC(bridging)を生みやすく、情報流通と社会の潤滑油として機能します。企業コミュニティにおいても、内輪化(結束型の行き過ぎ)を防ぎながら橋渡し機能を持たせる設計が、長期的な活性化につながります。